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ペットの給与量計算ガイド:安静時エネルギー要求量(RER)で肥満を防ぐ適正な食事管理

フードの袋に記載された給与量だけで判断していませんか?愛犬・愛猫の健康を守るには、安静時エネルギー要求量(RER)の計算が不可欠です。個体に合わせた正確なカロリー計算で、肥満や栄養不足を防ぐ方法を解説します。

Kylosi Editorial Team

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Pet Care & Animal Wellness

2025年12月26日
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モダンなキッチンで銀色の食器の横に辛抱強く座っているイエローラブラドールレトリバー。

愛犬や愛猫に与える食事の量、どのように決めていますか?多くの飼い主様は、ペットフードのパッケージに記載された給与量目安を参考にしていることでしょう。しかし、その数値はあくまで「平均的な活動量」を想定した大まかなガイドラインに過ぎません。個体差を無視して与え続けると、知らぬ間に肥満が進行し、関節疾患や糖尿病のリスクを高める原因となります。

そこで重要になるのが、獣医学的に推奨されている「安静時エネルギー要求量(RER)」の算出です。安静時エネルギー要求量(RER)とは、健康な動物が快適な環境で安静にしている時に消費するエネルギー量のことです。この基礎となる数値に、年齢や活動レベルに応じた係数を掛けることで、その子にとって本当に必要な「1日の総エネルギー量(DER)」を導き出すことができます。本記事では、プロレベルの計算方法をステップバイステップで詳しく解説します。

なぜパッケージの給与量だけでは不十分なのか

ペットフードの袋に印刷されている給与量表は、メーカーが設定した「標準的な犬・猫」に基づいています。しかし、現実には同じ体重であっても、代謝率、避妊・去勢の有無、運動量、さらには飼育環境(室内・屋外)によって、必要なカロリーは最大で20%〜30%も変動します。

特に日本で多い室内飼育の小型犬や猫の場合、運動量が想定より少なく、パッケージ通りに与えるとカロリーオーバーになるケースが散見されます。給与量表はあくまで出発点であり、個別のメタボリック(代謝)ニーズに合わせて調整することが、科学的な食事管理の第一歩です。飼い主が数学的なアプローチで食事量を管理することで、将来的な生活習慣病の予防に直結します。

日当たりの良い部屋で、ベージュのトートバッグにプリントされたフローチャートを指差す人物を座って見つめるゴールデンレトリバー。

安静時エネルギー要求量(RER)の計算式と実践

獣医学で最も正確とされるRERの計算式は、体重(kg)の0.75乗を用いた累乗式です。計算式は「70 × (体重kg)^0.75」となります。スマートフォンの電卓アプリを横画面(科学計算モード)にすれば簡単に計算可能です。例えば、体重5kgの成犬の場合、5の0.75乗は約3.34なので、70を掛けると約234kcalがRERとなります。

もし累乗計算が難しい場合は、2kg〜20kgの範囲であれば「(体重kg × 30) + 70」という簡易式も利用されますが、精度を求めるなら累乗式が推奨されます。このRERは、いわば生命を維持するための最低限のエネルギー。これを知ることで、過剰な給餌を防ぐ強固な基準が手に入ります。

明るいホームオフィスの木製デスクで、ノートと電卓の横に座るふわふわの白い子犬。

活動係数を用いて「1日の必要量(DER)」を導き出す

RERが算出できたら、次は個別のライフステージに応じた「活動係数」を掛け合わせ、1日の総エネルギー要求量(DER)を求めます。このステップが、食事管理をパーソナライズする鍵です。

一般的な係数の例(犬の場合):

  • 去勢・避妊済みの成犬: 1.6
  • 未去勢・未避妊の成犬: 1.8
  • 肥満傾向の成犬: 1.0〜1.2
  • 高齢犬: 1.2〜1.4
  • 子犬(成長期): 2.0〜3.0

例えば、RERが234kcalの避妊済み5kg犬なら、234 × 1.6 = 約374kcalが1日の適正量になります。このDERをフード100gあたりのカロリーで割ることで、1日に与えるべき正確なグラム数が判明します。おやつを与える場合は、この総カロリーの10%以内に抑えるのが鉄則です。

夕暮れの草原を走るゴールデンレトリバーと、室内の床で日の光を浴びてくつろぐ黒猫。

体重推移とボディコンディションスコア(BCS)による微調整

計算式は強力なツールですが、ペットの体は機械ではありません。計算した数値で2週間ほど給餌を続け、必ず「体重」と「ボディコンディションスコア(BCS)」をチェックしてください。BCSとは、肋骨の触れ具合や腰のくびれを目視と指で確認する5段階(または9段階)の評価指標です。

もし計算通りの量を与えていても体重が増えてしまう場合は、係数を0.1ずつ下げて再計算します。逆に痩せてしまう場合は係数を上げます。特に冬場は体温維持にエネルギーを消費するため、季節による微調整も必要です。数字に固執しすぎず、目の前のペットの体型の変化を科学的に観察し、柔軟に対応することが真の専門知識と言えます。

明るいキッチンで、デジタルスケールを使って白いボウルにドッグフードを量り入れている様子。背景ではゴールデンレトリバーが静かに待っています。

トラブルシューティング:計算通りにいかない時の対処法

「計算通りに減らしているのに痩せない」という悩みは非常に多いです。この場合、以下の3点を確認してください。1つ目は、家族の誰かが隠れておやつを与えていないか。2つ目は、歯磨きガムやサプリメントのカロリーを見落としていないか。3つ目は、基礎代謝が極端に低下している可能性です。

甲状腺機能低下症などの疾患がある場合、通常の計算式が当てはまらないことがあります。また、多頭飼育で他方の食事を盗み食いしているケースも考えられます。20%以上の減量を計算上行っても体重が変化しない場合は、代謝性疾患の有無を確認するため、血液検査を含めた獣医師の診察を受けてください。安全な減量は1週間に体重の1〜2%が理想です。

明るいクリニックで、診察中に青いスクラブを着た獣医がタンカラーのイングリッシュ・ブルドッグを優しく撫でている様子。

FAQ

避妊・去勢をすると、なぜ食事量を減らさなければならないのですか?

避妊・去勢後はホルモンバランスの変化により、基礎代謝が約15〜20%低下し、同時に食欲が増進する傾向があるからです。そのため、手術前と同じ量を与え続けると、高い確率で肥満を招きます。活動係数を1.6(成犬)程度に下げて調整することをお勧めします。

おやつのカロリーはどのように計算に含めるべきですか?

おやつは1日の総エネルギー要求量(DER)の10%以内に収めるのが黄金律です。例えばDERが400kcalなら、おやつは40kcalまで。残りの360kcalを主食(総合栄養食)で与えます。おやつを与えた分、必ず主食の量をグラム単位で減らすことが重要です。

ウェットフードとドライフードを混ぜる場合の計算はどうすればいいですか?

まず1日の総DERを求めます。次に、ウェットフードから摂取させたいカロリーを決め、残りのカロリーをドライフードで補うように計算します。それぞれの製品の100gあたりのカロリー値を確認し、比重ではなく「カロリー」ベースで分量を決定してください。

夕暮れ時のウッドデッキに一緒に座っている、成犬のゴールデンレトリバーと小さな黒い子犬。

まとめ

愛犬・愛猫の適切な食事量を導き出すことは、単なる数字の管理ではなく、彼らの寿命を延ばすための愛情深いケアそのものです。パッケージの給与量から一歩踏み出し、RER(安静時エネルギー要求量)に基づいた科学的な管理を取り入れることで、肥満由来の病気リスクを大幅に軽減できます。

まずは愛犬・愛猫の正確な体重を測り、本記事の計算式に当てはめてみてください。そして、BCS(ボディコンディションスコア)を定期的にチェックしながら、その子だけの「黄金比」を見つけ出しましょう。もし、極端な体重の変化や、食事量を調整しても改善が見られない場合は、迷わず信頼できる獣医師に相談してください。今日からの細かな計算が、数年後の健やかな毎日に繋がります。