愛犬のブラッシングを毎日欠かさず行っているのに、トリミングサロンへ行くと「根元に毛玉(フェルト状の塊)ができていますね」と言われ、短くカットせざるを得なかった経験はありませんか?実は、多くの飼い主様が行っているのは表面を撫でるだけのブラッシングであり、皮膚に近いアンダーコート(下毛)まで届いていないことが原因です。そこで重要になるのが、プロのトリマーが必ず実践している「ラインブラッシング」という技法です。ラインブラッシングとは、毛を層ごとに分け、皮膚が見える「ライン」を作りながら根元から丁寧に解きほぐす手法です。本記事では、愛犬の被毛を美しく保ち、皮膚の健康を守るための正しいラインブラッシングの手順とコツを徹底解説します。
表面だけのブラッシングが招く「隠れ毛玉」の恐怖
多くの飼い主様が陥りやすい罠が、スリッカーブラシで表面をサッと撫でるだけのケアです。一見すると毛並みが整って見えますが、実は毛の根元にあるアンダーコートが絡まり合い、皮膚に張り付くような「フェルト状の毛玉(ペルティング)」が形成されていることが多々あります。特にトイ・プードルやポメラニアン、ゴールデン・レトリーバーなどの長毛種やダブルコートの犬種において、この現象は顕著です。
根元の毛玉を放置すると、皮膚の通気性が悪くなり、高温多湿な日本の夏場などは湿疹や皮膚炎のリスクが急増します。また、一度固まってしまった毛玉を無理に解こうとすると、愛犬に強い痛みを与え、ブラッシング嫌いにしてしまう原因にもなります。ラインブラッシングは、この「根元の絡まり」を未然に防ぐ唯一の効果的な方法なのです。

ラインブラッシングに必要な三種の神器
効果的なラインブラッシングを行うためには、適切な道具選びが欠かせません。まず必須となるのが「スリッカーブラシ」です。針金のようなピンがついたブラシで、アンダーコートを効率よく掻き出します。日本で入手しやすい「岡野製作所」の製品などは、ピンの柔軟性が高く初心者にもおすすめです。
次に必要なのが、仕上げと確認のための「コーム(櫛)」です。ブラシが通った後にコームを入れ、根元から毛先まで引っかかりがないかを確認します。そして三つ目が、被毛の摩擦を軽減する「ブラッシングスプレー」です。日本の乾燥した冬場の静電気対策や、毛の滑りを良くするために不可欠です。これらの道具を正しく使い分けることで、愛犬の皮膚を傷つけることなく、効率的にラインブラッシングを進めることが可能になります。

実践!ラインブラッシングの正しい手順
ラインブラッシングの基本は、「下から上へ、外から内へ」です。まず、愛犬の足先や尻尾の付け根など、比較的毛の短い部分から始めます。利き手ではない方の手で毛を上に持ち上げ、皮膚が一本の線(ライン)として見えるように分け目を作ります。次に、スリッカーブラシを持ち、そのラインの境目にある毛を皮膚から毛先に向かって優しく、小刻みにブラッシングしていきます。
一段終わったら、さらに数ミリ上の毛を分け取り、新しいラインを作って同じ作業を繰り返します。これを体全体に行うことで、全身の被毛を根元から完全に解きほぐすことができます。特に脇の下や耳の後ろ、股の間などは毛玉ができやすい「重要ポイント」ですので、より細かくラインを作って丁寧に確認しましょう。最後にコームを通し、スッと通れば完璧です。

トラブル対処法:頑固な毛玉を見つけた時は?
ラインブラッシング中にどうしてもブラシが通らない大きな毛玉を見つけた場合、決して無理に引っ張ってはいけません。犬の皮膚は非常に薄くデリケートなため、無理な牽引は内出血や痛みの原因となります。まずはブラッシングスプレーを多めに塗布し、指先で毛玉を少しずつ外側から割くようにほぐしてみてください。
指でほぐれない場合は、スリッカーブラシの角を使い、毛玉の表面から少しずつ毛を掻き出します。もし毛玉が皮膚に密着してカチカチに固まっている(フェルト化している)場合は、家庭でハサミを入れるのは非常に危険です。皮膚を巻き込んで切ってしまう事故が多発しているためです。自分では対応しきれないと感じたら、無理をせず信頼できるプロのトリマーに相談しましょう。プロは専用のバリカンや技術を用いて、安全に毛玉を除去してくれます。

安全のための注意点とプロへの相談時期
自宅でのラインブラッシングは愛犬とのコミュニケーションの時間でもありますが、安全が第一です。ブラッシング中は常に皮膚の状態を観察してください。赤みや湿疹、ノミ・ダニの寄生、あるいは小さな腫瘍がないかをチェックします。ラインブラッシングは皮膚がよく見えるため、病気の早期発見にも繋がります。もし皮膚に異常を見つけた場合や、愛犬が特定の場所を触られるのを極端に嫌がる場合は、怪我や痛みのサインかもしれません。
また、セルフケアの限界を知ることも大切です。全身が毛玉だらけになってしまった場合や、愛犬が暴れて危険な場合は、家庭でのケアを一旦中止し、獣医師やプロのトリマーに相談してください。無理な継続は愛犬との信頼関係を損なう恐れがあります。定期的にプロのシャンプー&カットを受けつつ、その状態を維持するために家庭でラインブラッシングを行うというサイクルが理想的です。

FAQ
ラインブラッシングはどのくらいの頻度で行うべきですか?
理想は毎日ですが、難しい場合は2〜3日に一度は全身を行うようにしましょう。特に毛が絡まりやすい脇の下、耳の後ろ、足の付け根などは、毎日短時間でもチェックすることをお勧めします。
スリッカーブラシが皮膚に当たって痛くないか心配です。
正しい持ち方(鉛筆を持つように軽く持つ)と、自分の腕で試して痛くない程度の力加減で行えば大丈夫です。皮膚と平行にブラシを動かし、決して皮膚に垂直に突き刺さないよう注意してください。
短毛種でもラインブラッシングは必要ですか?
短毛種(柴犬やパグなど)の場合は、毛を分ける「ライン」を作る必要はありませんが、ラバーブラシなどを使ってアンダーコートを取り除く作業は同様に重要です。長毛種のような「もつれ」は起きにくいですが、抜け毛対策として有効です。
まとめ
ラインブラッシングは、単に見た目を整えるだけでなく、愛犬の皮膚の健康を守り、快適な生活を提供するための非常に重要な技術です。最初は時間がかかるかもしれませんが、慣れてしまえば毛玉トラブルから解放され、トリミングサロンでの「毛玉料金」を抑えることにも繋がります。何より、根元からふんわりと整った被毛は、愛犬の可愛さを最大限に引き出してくれます。今日から「皮膚を見る」ブラッシングを意識して、愛犬との健やかな毎日を過ごしましょう。もし不明な点があれば、お近くのトリミングサロンでプロの手つきを一度見せてもらうのも良い方法です。

